まだ何も成し遂げていない。入口に立っただけだ。 第42節 vs横浜FC ○2-1

まだ何も成し遂げていない。入口に立っただけだ。 第42節 vs横浜FC ○2-1
はじめに、書いておきたいことがある。
この試合には勝ったけれども、何も掴んだ訳では無いこと。
我々は、入口に立っただけ。
本当の戦いは、これからだ。

それでも、ホーム・フクアリが、久しぶりに沸き立った事は記録しておきたい。

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正直、ジェフを応援していると、キツい時、辛い時の方が多い。
何でこんなチームを応援するようになってしまったんだろと、思うことだってある。

とりわけ、ここ最近サポになった仲間達は、
あんまり楽しい思い出が無いんじゃないだろうか。

そりゃ、遠征で、スタグルで、楽しみ方は人それぞれ。
勝敗以外の楽しみだってある。
けれど、自分たちの応援するチームが、自分たちのサッカーを貫いて、
勝って、結果を出す。
その瞬間を、一緒に応援して共有することは格別だ。

フクアリは、いつからか「劇場」とも呼ばれるようになった。
普段は空席の目立つスタジアムだけれども、
ここ一番の試合には、今まで何処にいたんだというジェフサポがスタンドを黄色く染める。

この試合が初めてと言う人が居る。
J1のジェフを知らないだろう子供達も居る。
黄紺だったり、ちょっと古びたユニを着たのは、
仕事や、家庭や、色々あって、
以前のようにはスタジアムへ来られなくなってしまった、
昔馴染みだったりする。

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最終節を前にフクアリは、久しぶりにチケットがSOLDOUTとなった。
ここまで6連勝。クラブ新記録の7連勝がかかる。
が、勝ったとしても。プレーオフに残れる可能性は僅かしかない。

それでも、と。

何かが起こる事を、誰もが期待して、決して諦める事はせずに、目の前の一戦に臨んでいた。

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スタンドをジェフイエローのサポーターが埋め、
バスの出迎えから応援が始まり、
選手入場と共にビッグフラッグが広げられる。
タオマフが掲げられ、そして狂い回される。
舞台は調っていた。

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スタメンは、前節と変わらない。
サブには、指宿、清武、矢田が切り札として控える。

が、「劇場」は、必ずしも平常心で戦いやすい場ではない。
近藤が言うように、選手達には普段以上の緊張感、力みがあったのだろう。
開始早々、ボムヨンが倒れたが笛は鳴らない。
目の前だったが、ぶつかったようには見えななかった。
むしろ、ファイルを貰いに行ったように見えた。
そのままプレーは続行。
ボールは易々と中央に折り返され、ゴールを割られてしまった。
記録はオウンゴールだったが、溝渕が当てなくても、
詰めていた横浜の野村に決められていた球だった。

いきなりの失点で消沈するスタンド。
選手達は、遮二無二なって、得点を奪い返そうとする。
失点に絡んだボムヨンは、気持ちが昂ぶってしまって、相手選手に食ってかかる。
それを勇人が必死になだめる。

ここで、退場でもしてしまえば、ゲームは完全に終わってしまっていた。

悲鳴にも似た声援を送るスタンド。
まだ、フクアリは、戸惑っているようだった。
全然応援に「圧」がない。
声が出ているのは、いつもと同じように、ゴール裏の一部ばかりで、
手拍子がいつもより多い、そんな程度の空気だ。

試合は進む。
勇人、アンドリューの2人が、過剰とも言えるような潰しで、中盤を制圧にかかる。
先制した横浜FCは、プレーに余裕があり、名古屋のように細かく繋ぎはしない。
なかなか高い位置でカウンターが仕掛けられず、じりじりとした展開が続く。

横浜の前線には、イバも、レドミも居る。
隙を見せれば、やられるのはジェフの方だ。

いくつかのチャンスが生まれるが、決めることが出来ない。
攻めながらも、得点が奪えずに敗れた試合がチラつく。
今日は、そういう日なんじゃないかと。
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そんな不安を切り裂いたのは、10番の也真人だった。
ラリベイのポストプレーで右に展開されたボールを受けとると、
深く切り込んで、右足を振り抜いた。

逆サイドから見ていて、角度は全く無いように見えた。
が、強烈なシュートが、ネットを揺らしていた。
「あの角度から決めるか!?」
俄に信じられないようなスーパーゴールで、同点に持ち込んだ。

この日の也真人は、名古屋戦をも上回る、鬼気迫るプレーぶりだった。
チェイシングにしても、ボディコンタクトにしても、ドリブルにしても。
「ここでブッ壊れるつもりか?」
そう危うんだそばから、
カウンターからの強烈なドリブルでペナルティエリアに突っ込み、
そのまま倒れて、止まった。

しばらく動かず、担架で運び出される。
ベンチでは、清武が急いでアップにとりかかる。
スタンドから、野太い声、高い声、也真人を呼ぶ叫びが上がる。
乾の事があるだけに、心配でならなかったが、運びだされた也真人は再び立ち上がった。
とにかく、限界ギリギリ、搾り出したようなプレーぶりだった。


半が終わる。
1ー1。

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攻め込みながらも、逆転は出来なかった。
が、後半はホーム側へ向かって攻める。
残り45分、とにかく勝って終わる。
今季の集大成を見せる戦いが始まった。

一気呵成に攻めるジェフだが、名古屋戦に見せたような速い攻撃がなかなか仕掛けられない。
横浜が押し込まれて密集してしまっているのもあるし、
左の為田がかなりケアされてしまっていて、ボールを上げきる事がなかなか出来ない。

代わりに比嘉がかなり自由に動けて、そんなプレーも出来たのかという、
股抜きからのドリブル突破でゴールに迫るなど、前半から奮闘している。

が、中央はヨンアピンをはじめ、固められている。
なかなかスペースが開かない。
それでも、攻めるしかない。

エスナイデル監督の決断は早かった。

55分には、勇人に代えて矢田。
勇人自身、「俺?」と言う感じで交代のボードを見やった。
前節同様、この試合も獅子奮迅のプレーぶり。
こんな早い時間に交代と言う出来じゃない。
それでも、矢田の攻撃のセンスと、フレッシュさがこの場面では求められた。
スタンドを煽りつつ、勇人がピッチを後にする。

さらに、船山に代えて、64分には清武が投入される。
これまで多くの選手で、様々なシステムを試行錯誤しながら戦ってきた。
誰がスタメンで、誰がベンチと言えないくらい、誰が出ても良いメンバーになっている。

徐々にスタミナが切れつつある横浜に対して、ジェフは手数が落ちない。
勝つしかないジェフは、とにかく攻める。

スタンドも、目の前で繰り広げられる戦いに、さらに熱を帯びる。
何度目かの「stomp」で、フクアリの屋根から、拍手が降り注ぐような調子に変わってきた。
が、攻めても、攻めても、ゴールは生まれない。

73分、比嘉に代えて、最後の交代は指宿。
ディフェンスを削ってでも、パワープレーでも何でも、とにかく点を取る。
その意思表示。

が、その直後の横浜FCの一手が、ともすれば危険な一手だった。
ディフェンスの新井に代えて、カズを投入。
一瞬、フクアリを包んだ、何とも言えない空気。
カズに対する過剰なリスペクトが、「劇場」の空気を変え、
その主役を彼にしてしまうように感じたからだ。
それだけのオーラが、カズにはある。

が、試合が再開されると共に、猛烈なプレスが再びはじまり、
ざわつきは、再びジェフへの声援の波へと戻った。
残り時間は僅かに10分ばかり。
波状攻撃を、声援が後押しする。

完全に崩しきった場面があった。
フィニッッシャーは也真人。
が、前半あれほど角度の無いところから決めたシュートが正面から枠を捉えられない。
緊張感がそうさせたか、疲労で既に足が思うように動かなくなっていたか。

大きなため息を掻き消して、さらに声援が大きくなっていく。
周りの人がどんどん立ち上がって、声援を送る。
フクアリが、縮んだような錯覚。
時間はもう幾ばくも無い。

90分を回っても、スコアは1ー1だった。
が、まだアディショナルタイムは5分ある。

コーナーキック。
手拍子は最高潮になり、屋根に反響して音の塊のようになっている。
優也が上がって来るのが見え、何か清武が近藤と言葉を交わしている。
目の前に清武がボールを置いて、振り抜いて、上がったボールが、
えらくハッキリと近藤の頭に吸い込まれて行くのが見えた。
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次の瞬間、キーパーの手を強烈に弾いてゴールが突き刺さると、
地鳴りのような歓声と、立ち上がって両腕を突き上げる人たちと、
誰彼構わず、抱き合う揉みくちゃの姿と、
スタンドを煽る選手達、ごっちゃごちゃになって喜ぶ選手達の様子が、
一緒くたになって飛び込んで来た。

試合は終わっていない。
まだ時間はある。
ゴールの余韻もそこそこに、タイムアップに向けて応援が大きくなる。
最後の最後、横浜FCのフリーキックを優也が弾いて、そして試合が終わった。
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勝った。
やるべき事はやった。
が、ジェフは、勝つだけでは、この次が無い。

周りで他会場の結果を皆が調べはじめている。
ベンチは、何だか喜んでいる。
それを伝え聞いて、選手達が喜び合っている。

ほどなくして、スタジアムDJのガマさんの弾んだ声とともに、
ビジョンに他会場の結果が映し出される。

東京V 2ー1 徳島
松本  0ー1 京都

「プレーオフ進出決定です!!」

一際大きな歓声がフクアリを包む。
こんな事って、二度もあるんだな。
完全に他力本願だったのに。全てが転がり込むなんて。
もちろん一度目は、2008年のJ1残留を決めたFC東京戦だ。

サポ仲間と握手を交わし、喜びを分かち合う。
けれど、喜びと安堵と合わせて、気持ちは引き締まる。
何も終わって無いんだよな。今回は。
いま、この時がスタートなんだ。
結果は分からない。
でも、エスナイデル監督が鍛え上げた今期のジェフを、
もうしばらく、観続ける事が出来る。
それが嬉しかった。

そして、久々に満員に膨らんだいっぱいのジェフサポの眼前で、この劇的な結末。
この日、この時、フクアリに集った人たちの
から、
これからのジェフを支えてくれるだろうサポが、
たくさん生まれたに違い無いことが嬉しくてならなかった。

きっと、何年後かに、
「俺は、あの試合をフクアリで観てたんだぜ」って言うヤツが、何人も居るはずだ。
こう言う素晴らしい瞬間も、ジェフサポしてると、たまにはあるんだって。
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試合終了後のセレモニーで、前田社長が「戦える集団になった」と誇らしげに言い、
エスナイデル監督の続投を宣言した。
こんなに気分が高揚して、終えられる最終戦は一体、いつ以来だろう。
プレーオフの初戦は名古屋。
逆のヤマには、ヴェルディと、福岡。
オリ10のチームが3つも残る事になった。

これまでは、他力本願だった。
だが、これからは、自力で勝ち取るJ1への道だ。

6位のジェフにアドバンテージは無い。
アウェイ連戦。引き分けも許されない。
これまでと何も変わらない。
ただ、目の前の一戦に、全力で勝ちに行くだけだ。

掴んだ「流れ」を決して手放さずに。
今期、積み重ねた練習の一つ一つと、仲間達を信じて。
突っ走って、突き抜けて欲しい。

悔しい思いは、もう十分味わった。
どのクラブよりも、昇格への想いが強いのは、
俺達ジェフだ。