臨界点の向こう -第34節・東京ヴェルディ戦-

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既に10敗。J1昇格と言う目標を見据えた時には、既に希望は絶たれたも同然の状況だ。
なのに、薄っぺらい可能性だけは残っている。
そこに、どれだけ執着できるか。この日の戦いはそういう一戦だった。

ヴェルディ。

ジェフと同じ、オリジナル10の名門。にも関わらず、存続の淵までに追い込まれ、そして辛くも生還を果たした歓びが、試合前には溢れていた。OB戦、スポンサーに感謝する横断幕、そして25,000人もの観衆。
かつてのヴェルディのそれではなかったが、今、目にするヴェルディもまた、営々脈々と続くクラブの道の続きであり、かつてJリーグブームの頃には無かった、クラブとしての魅力を持ちつつあるようにも見えた。

その観衆の中、試合開始と共にヴェルディが勢いに乗って攻める。

ここまで、スカパーで何試合かヴェルディの試合を観戦していたが、春に比べて格段の上積みがある。そして若さと、何よりも技術がある。

ヴェルディユースもそうだったが、足元のトラップ、ターン、それら一つ一つが正確。

いかにも「読売クラブ」らしい、ボール回し、相手の裏を書くような、ノールックに近いパス出しは、さすがと言う感じがする。この半年で、川勝監督の下で、しっかりと組織化されたチームは、それらを試合の中で活かす事が出来る。
ジェフが失点した場面も、ディフェンスが何人いても決められてしまいそうな(実際決められた)空気が漂っていた。

一方のジェフは、前節までの三連敗で、もう戦う気持ちが萎えているのでは無いかと思うほどに前半は後手を踏んだ。シュートが一向に撃てず、久々先発の浩平も精彩を欠いて、「遅らせるだけ」の存在になってしまっている。

空気の悪さを感じたのか、ベンチは、早々に米倉にアップを命じる。

前節も途中交代で素晴らしい闘志を見せたヨネ。この日は、前線で居所を見つけられずにいた、大介との交代になった。

劣勢を強いられていた一つの要因としては、前線以降のフィジカル的な「軽さ」がある。

キープできる人材、競り勝てる人材がおらず、ボールがヴェルディの方へと、常にこぼれていってしまう。それが、ヨネが入ったことで、少しずつ変化を見せ始め、そういう流れの所で前半が終わった。

後半になり、流れは顕著になる。

これまでのジェフは、前半で作った流れを、後半で相手に容易く修正されるばかりだったが、この日は、後半になってより流れを引き込んだ。

ヨネが競り勝ち、基点を作るたびに、徐々にジェフのラインが上がる。

右SBに入った坂本も、時間と共にポジションを上げ、ヴェルディに圧力を加えて行く。

惜しいチャンスが続いたあと、ショートコーナーから同点弾は生まれた。

素早いリスタート。相手の体勢が整う前に、勇人が逆サイドのアレックスに上げたボール。ダイレクトシュートが、土肥の手を弾く。

ハイライトは71分。

中央でボールを受けた勇人が、そのまま切れ込んで、トーキックでシュートを流し込んだ。久々の勇人らしい、攻撃センスを見せた動き。ポストを叩いて、ネットを揺らした様を確認し、一目散にベンチへと走っていった。まるで、優勝したかのような喜び。

三連敗のもどかしさが、訃報を堪えて指揮を執った江尻監督への想いが、普段以上の何かが、勇人の一撃にはこもっていた。

しかし、ヴェルディも流れに任せて引き下がって居た訳ではなかった。

次々と選手を代え、流れを取り戻そうとしてくる。彼らの時間帯も、あるにはあったが、この日は、何とかその時間を耐え切る。逆にジェフは、87分にネットを投入。その直後に、米倉がネットのパスを受けて、GKと1対1になるチャンスを作ったが、決めきれない。

相互に攻めあい、時間も身体も削りあった戦いは、タイムアップと共に双方が倒れこむ熱戦になった。

気力。

前半は、足りなかった底力が、米倉の登場と共に蘇ったジェフ。
昇格云々を超えたところで、とにかく勝利を強く渇望する気持ちが、勝利を呼び込んだ。

胸に手を当てて、自らの鼓動を確認するような戦いが、残り4戦続くだろう。

臨界点の向こうに、天命は待っている。