この選手達と共に勝ちたい -第26節・神戸戦-

この選手達と共に勝ちたい -第26節・神戸戦-

もがいている。
ジェフが、江尻が、選手達が、理想と現実との狭間で、もがき苦しんでいる。

思い返しても詮無き事だが、現在は「ほんの僅かな差」の積み重ねだ。その差が、結果を分け、伴わぬ結果にチームは苦しんでいる。「一つ勝てば」状況は、がらりと変わるのだろう。しかし、時間は限られている。刻一刻と迫る、2009シーズンの終焉が、チームに焦りを生み、心をかき乱す。

結果が出ない事は、自信を失わせる。
けれど、結果が出ないからといって信念を見失う事は、その土台すらも揺らがせてしまう。
苦しい時こそ、自らを信じること。それこそが、今のジェフに最も必要な事だ。

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ホームズスタジアム神戸。
澄み渡る秋空が、開放された天井に四角く切り取られていた。以前、「ウイング」時代にここで試合をした時とは、ホームとアウェイの位置が逆になっている、少し奇妙な気分だ。
スタジアムに着いたときには、今日は少ないのかとも思ったジェフサポだったが、試合が近くなるにつれて、ゴール裏を黄色く埋めていた。去年は、状況が厳しさを増す中、アウェイにまで繰り出すサポはむしろ増えていった。「やるしかない」思いを強くする人ほど、スタジアムに足を運ぶ。そう言う意味では、アウェイの方が心地良い時すらある。

勝つしかない試合。
何とかして、山形との差を「3」以内にして来週を迎えたい。
試合前に入ってきた柏の引き分けの一報に胸をなでおろし、試合に集中する。

最前列には「一部死守」の大断幕。
書き加えられた選手達のサインとメッセージ。その横断幕の真下で、選手達のアップがスタートする。アウェイだけにコンパクトにまとめられた応援のエリアが、一層に声を「塊」にする。

「WIN BY ALL!」コールに、「あっこちゃん」。
ユニフラッグもゴール裏を彩る。

この日のスタメンは、GKが櫛野から岡本にチェンジ。さらに、巻をスタメンから外し、ミシェウが先発。谷澤がFW登録だったが、実際は、谷澤が左サイドでミシェウがトップ下の4-2-3-1。ネット、ミシェウ、外国籍選手の「個」の力に賭ける、そう言う布陣だ。

----ネト----
谷澤--ミシェウ--深井
--中後--工藤--
良太------坂本
--エド--昇平--
----岡本----

対する神戸は、外国籍選手は金南一のみ。
ジェフとは対称的に、三浦新監督の就任が奏功し、「結果」が出ているチームだ。

新監督同士の戦いとは言え、「結果」を出して自信を深めている神戸は、熟成度の面で一日の長がある。序盤を無難にやり過ごして、徐々にジェフの新布陣の良さを出したいところだったが、プランはいきなり崩れる。

7分。
ジェフの右サイドで起点を作られると、中央でしっかりとポストプレーをこなされ、後ろから走りこんだ朴が、狙い済ましたグラウンダーのミドルシュート。岡本の指先をすり抜け、綺麗に決められた。
誰のせいと言うよりも、失点に関わった全員のプレーが悪い。気合が入っているワリには、局面で敵に決定的なプレーを易々とさせてしまうのだ。プレスでも、マンマークでも、守備の仕方は何でも良いのだが、相手が悠々とパスを回しているシーンが多過ぎる。もっと、厳しく、身体を当てて喰らいつかなくては。

反撃に出るジェフだが、なかなか目指す連動性が出せない。
逆に、相変わらず重要な場面で、ミスパス、連携ミスが目をつく。それゆえ、シュートまで至らない。相手がよく守っているとも言えるが、どの試合でも同じなのだから、敵を上回る精度を、未だに身につけていないとも言える。
相手よりも考え、相手よりも動き、パスコースを作る。精度が低くても、極端に簡単なパスならば通せるはず。動きが足りないから、「簡単なパス」を作り出せない。

そうなると、「難しいパス」を通してしまう力量が求められる。
ネットがPKを獲得した場面は正にそうだった。ミシェウからの難しいパスが、神戸ディフェンスを一気に引き裂く。たまらずのファウル。ネットのPKは、神戸ゴール裏の士気までも削ぐ勢いで、豪快に叩き込まれた。
ミシェウからネット。この日の布陣の狙い通りの一撃だった。

久々の得点に勢いづくジェフ。前半終了間際にかけて、やや神戸の反撃にも遭ったが、一進一退。それほど押し込まれた印象は無い前半だった。

「もう一点じゃ駄目だ。あと二点獲らなくては。」
「そろそろ選手が出てくる、立ち上がろう。」
声を掛け合う。
その時、久々にアメグレがスタジアムに響いた。どうすれば勝てるのか、そうすれば後押しが出来るのか、この声が届くのか。勝たせたい。とにかくまず一つ。願い、葛藤、色々な想いがこもった、アメグレだったように思う。

その声に乗せられるように、序盤はジェフが攻め立てる。最も決定的だったのは、7分のネットのヘディング。左サイドでショートパスの交換からフリーになったミシェウが送り込んだクロスに、ネットがフリーで叩きつけたシュートは、力が入り過ぎてバウンドしたボールがバーを越えてしまった。
頭をかかえ、ゴールネットの中で崩れるネット。

チャンスを生かせないジェフに、さらに追い打ちをかけたのは10分の朴のミドル。
素晴らしいシュートだったが、シュート体制に入る前に潰せたはずのシュートではあった。右を駆け上がった石櫃の動きに2人が釣られ、朴がフリー。同じ相手に、一試合の中で余裕を持って二度もシュートを打たれる。情けない限りだ。

気落ちしたジェフを神戸が攻め立てる。ミドルシュートが思い外、有効だと改めて思ったのだろう。大久保をはじめ、次々と強烈なシュートをミドルレンジから見舞ってくる。さらに、FKからクロスバーやポストを強襲するシュートが3本。どれか一本でも決まれば終わっていた。
ホーム側で展開される攻防を目の前で見ていたなら、生きた心地がしなかっただろう。まだ運がある。そう自分に言い聞かせた。

後半20分、坂本が太田と交代。
磐田戦でアレックスがサイドバックに入ったように、太田を使うのかと思ったが、どうやら、様子が違う。まさかとは思ったが、練習でもロクにやった事の無い、3-5-2へのポジションチェンジだ。

--谷澤--ネト--
----ミシェウ----
深井------太田
--中後--工藤--
-良太-エド-昇平-
----岡本----

正直、付け焼刃の3-5-2だ。
ただ、負ければ何の意味の無い試合。「リスクを犯し」「勝ちに行く」為には、何でもやるしかない。さらに、後半26分には巻が、後半33分には和田が投入される。

--深井--巻---
----ミシェウ----
和田------太田
--中後--工藤--
-良太-エド-昇平-
----岡本----

この交代は、守りのバランスを大きく崩したことも事実だったが、それ以上に前に前にと攻撃の意識を
切り替えることには成功した。総攻撃モードだ。
28分には、ミシェウがゴールを揺らすも、オフサイド。
さらに、その1分後には、ミシェウがゴール前に入れたクロスを深井が、ゴールキーパーの鼻ッ面で合わせてシュートも、榎本に阻まれる。逸機に気落ちする事無く、攻勢にゴール裏も声援が上がる。ピンチも多かったが、岡本を後押しせんと、声援はますます大きくなる。

残り少なくなる時間。焦りはあった。
しかし、43分。和田のロングスローを、巻が頭で繋ぎ、「10番」で「キャプテンマークを巻いた」工藤のグラウンダーの一撃が決まって、ようやく同点に追い付く。こうなれば、勝つしかない。
一気に臨界点を振り切った応援。工藤のミドル、巻のヘディング。しかし、あと一歩が及ばない。

長いロスタイムの後に、鳴り響く笛。
倒れこむ選手達。全力は尽くした。しかしまたも、勝てなかった。

重たい身体を引きずり、挨拶に来る選手、監督、スタッフ。
それを大きな「千葉」コールで迎え、見送った。

何がどうこうと言うのじゃない。
彼らと共に勝ちたい気持ちが、より一層強くなった。

座り込み、じっと誰も居なくなったグラウンドを見つめ、ふうっと息を吐く。
「悔しい」
「何が足り無いのか・・・勝ちたいなぁ」
「この勝ち点1がモノを言うんだよ」
「次のホームで、何としても勝たないと」
悔しさは、皆、一緒だ。

この苦境を、誰彼のせいにして逃げるのは簡単な事だ。
だが、ホームでアウェイで、共に戦い、彼らのプレーと、彼らの表情を目に焼きつけ思うのは、とにかく今のジェフと共に戦い、勝ちたいのだ。今年のジェフと戦えるのは、泣いても笑っても、残り8試合。

次は、山形との大一番。終盤に希望を繋ぐ事が出来るか。
フクアリを、ホームたらしめ、勝利に導く事が出来るか否か、それはサポの想い一つだ。野次や、罵声や、ブーイング、失点に気落ちして黙りこくる前にやるべき事がある。

勝ちたい。勝つしかない。