5/3(祝・水)・第11節・浦和レッズ戦
- 2006.05.04
- GAME REPORT
「反骨心」それが、ジェフの力の源だ。
「弱小」と罵られた時代への、「不人気」と詰られる動員への、「落選」と決め付ける周囲への。「負けてたまるか」、そう誰もが強く思っていた。皆の気持ちを選手達は見事にピッチに描いた。これがジェフのサッカー。監督は四年前に言った「ジェフはジェフのサッカーをやる」と、正にそれだった。誇るべき一戦。強い気持ちの入った戦い。今改めて、このクラブを応援している事を誇りに思う。
快晴のフクアリ。
この日を向かえる前から、戦いは始まっていた。昨年秋、出来たばかりのスタジアムを、我が物顔で蹂躙された悔しさ、忘れてはいない。赤く染まったスタンド、二度とあんな光景は見たくない。ホーム・フクアリを黄色染め、最高のサポートをする。
そう願ったジェフに関わる全ての人たちの精一杯の意地が、6割黄色のスタンドを実現した。6割を少ないと言う人も居るかも知れない。声で負けていたと言うかも知れない。それでも精一杯を形にしたスタンド、選手達を迎える黄色いスタンドの準備は整った。
そしてもう一つ、忘れてはならない要素がある。
代表・ジーコ監督の視察だ。キリン杯代表の発表で、誠実過ぎるこの代表監督は、ワールドカップのメンバーがほぼ決まっている、当落線上の選手にはほぼ可能性が無い事を示唆してしまっていた。一縷の可能性を信じる選手達にとって、それがどれほどに残酷な事か。気持ちが切れてしまっても仕方が無い状況。
それでも、阿部は、巻は、諦めていなかった。それを周囲も感じていた。
「なにくそ」「冗談じゃない」どれほどの絶望と焦燥から、彼らは自分を奮い立たせたのだろうか。この試合のピッチには、沸き立つ反骨の心が漲っていた。
様々な感情が渦巻く中、かくして熱戦の火蓋は切って落とされた。
圧倒的な浦和の声量も、自らが全力で声を上げて居れば耳には届かない。
ジェフの布陣は3-6-1、出場が心配されたイリアンも強硬出場。ワシントンを大輔が、ポンテを水本が潰し、イリアンが一枚余る。中盤では、長谷部と小野に阿部と勇人が対応。攻撃陣は、羽生とクルプニのダブルシャドー。巻が最前線で身体を張る。
浦和はメンバーを少し欠いていた。GK都築、DF堀之内が怪我で欠場。MF鈴木が累積警告。その他の選手にも、万全とは言い難い選手が大く居た。ただ、選手層は極めて厚く、代わって出場したGK山岸、DF内館、MF平川、いずれも一線級の選手ばかり。サブにも酒井・相馬・永井らが控える豪華な布陣だ。
試合開始から、ジェフの選手達は一気の攻勢に出る。
開始1分、いきなり巻が中央でボールを受け、体勢を整えてシュートを放つ。だが、DFが必死のクリア。さらに直後には、素早いリスタートから羽生が抜け出し、スライディング気味にシュートするも、GKにブロックされる。体力配分も何も関係ないような怒涛の攻め。予想通りの真っ向勝負。引いたら負けだ。「そんなサッカーなら試合をやらない方がいい」と話した監督の言葉のまま、攻めに攻め続ける。
とにかく、プレスが凄まじく速い。
昨年のヤマハでの磐田戦を髣髴とさせる、猛烈なプレッシングで、2人・3人がすぐに浦和のボールホルダーに襲い掛かり、ロクにボールキープすら許さない。特に阿部の気迫は凄まじいばかり。代表の小野・長谷部らと対峙する時には、厳しく身体を当てて、次のプレーに移る事を許さない。浦和の選手のフォローが後手を踏む中、局面局面で数的不利を作られた小野・長谷部は分断され、苦し紛れにボールを戻す事しか出来ない。
さらに阿部は、攻め上がってゲームを作り、シュートまで放って見せる。オフサイドになった飛び出し、GK山岸にセーブされた渾身のミドル、点にはならずとも攻守両面で頻繁に顔を出す。浦和は、何度阿部を突破できただろうか?
そして、最前線では巻が一人で身体を張り続ける。
ボールを追い、ハイボールを競り合い、正確なポストプレーで起点になる。その周囲を、羽生がクルプニが駆け回り、左からは山岸が攻撃参加して、必死にフォローする。何をせんとしているかが分かる。皆が巻にボールを集めようと、彼のためにシュートコースを開けようとしているのだ。「W杯に行くんだ」強い決意を伴ったプレーで、巻がそれに応えようとする。相手が誰だろうが関係ない。身体を当て、戦う。
その巻のプレーが次々とチャンスを呼び込む。
15分には、山岸の左クロスに頭から飛び込んでネットを揺らす。しかしオフサイドの判定。大喜びのスタンドが、判定に疑問を呈すブーイングに変わる。
しかし、流れはジェフ。どこまで時間が進んでもジェフ。プレスの網は途切れる事無く、織物のように鮮やかだ。一方的に、ハーフコートに押し込む。予想をしなかった展開。
さらに巻が畳み掛ける。左クロスを受けた坂本から、勇人がダイレクトに折り返して、ドンピシャヘッド!これはGK山岸の左手一本のスーパーセーブに阻まれる。
ピンチが無かったわけではない。
カウンターから、ワシントンの狙い澄ましたシュートをかろうじて立石が弾く。浦和の「個」の力は、分断されても時折鋭い牙を剥いて来る。
攻撃の連続に、あっという間に時間が過ぎていく。ハーフタイム、攻め続けながら点が奪えなかった事に嫌な感じを覚えなくもなかったが、それ以上に期待感と言うか、勝てるという強気な気持ちが沸いて来る。
そして後半。
浦和は、阿部に押さえ込まれた長谷部を下げて、DFに若い細貝を投入。内館をボランチに上げて、守りの内館と攻撃の小野で役割分担を明確にして、バランスを整えようとする。この交代は、一定の成果はあった。ジェフが押し込む展開は変らないものの、散発的だが浦和のチャンスも生まれ始める。
小野がフリーでコースを狙ったヘディングシュート、ポンテは裏に抜け出して後一歩のところで立石を破る際どいシュートを放つ。CKからワシントンのヘディングに肝を冷やす。
どれかが決まっていれば、流れは変わっていたかも知れない。けれども、この日のジェフは素晴らしく集中して、最後の一線は割らせない。
プレスの網は変わらず浦和を縛りつけ続け、足りないのはゴールだけ。
阿部のダイレクトボレーも枠を捕らえられず、時間が少しずつ減っていく。焦る浦和の隙を窺い、その一瞬を待つ・・・浦和のロングボールが、ジェフのゴール前で跳ねる。イリアンとポンテが激しくポジションの取り合って競る。ポンテが倒れ、FKを主張して主審に異議を唱える。その間に、ボールはハーフウェーラインに大きく戻される。羽生が競り合いながらボールをキープする。タテに素早く送られたボールは、少し下がり気味にしてボールを受けた巻が、素早くフォローに入ったクルプニに預ける。ダイレクトで上げられたクロスは、巻が下がった事で前線に空いたスペースに駆け上がっていた勇人の胸へ。その胸で丁寧に落とされたボールは、坪井の横をすり抜け、待っていた巻の前へ。迷うことなく、「気持ちを込めて」強く強く振りぬかれた右足の力任せに、グラウンダーの強烈なシュートが、左ポストを叩いてゴールの右ネットへ飛び込んだ。
その瞬間、フクアリが歓喜の声に揺れ、赤の声援を遠くに押しやった。
一番決めて欲しかった選手の、会心の一撃。巻も、どうだと言わんばかりにスタンドを煽る。感情を爆発させ、歓喜の絶叫が上がる。その絶叫は、スタンドで見つめる代表監督への反骨の叫びだ。見たか、見ているか?これが、巻誠一郎だ!
がっくりとうな垂れる浦和の選手達。残り時間は15分、最後の反撃はお決まりの闘莉王の攻撃参加。百も承知のこと。すると、巻がいつの間にかDFラインに居た。闘莉王をマンマークし、身体で押さえ込みにかかる。際どいシュートも放たれたが、チーム全体がドン引きの守備になったわけではない。浦和相手に時間稼ぎは通じないと意思統一が出来ていたのだろうか、時間が過ぎても攻めの姿勢を失わずにカウンターの機会をうかがい続ける。
監督が動く。
勇人に代え、中島浩司。この中島が大仕事をやってのけた。
守備要員として投入されたはずの中島だったが、右サイドのカウンターから羽生のパスを抜け、一気に抜け出す。浦和のディフェンスは3枚。ところがするするとゴール前まで進む事が出来てしまう。
スタンドの心配をよそに、飄々と放った角度の無いシュートはおよそ中島のシュートとは思えないような弾道を描いて、あっさりと浦和ゴールに突き刺さった。歓喜と同時に、「決まったんだよな?」と不思議な気持ちになるゴール。「中島らしいと言えば、中島らしいか」そんな、何とも言えない歓喜と笑いがまき起こる、決定的な一撃だった。
こうなると逃げ切りだ。
すっかり勢いの無くなった浦和の応援を、「大脱走」が圧倒していく。ハース、ラクも投入して完全勝利への余裕の数分間を過ごす。主審の笛が吹かれ、大脱走は歓声へと変わっていった。
素晴らしい勝利。ここまで90分間、ジェフらしいサッカーを体現して勝ったことは、そうそう見たことが無い。去年の磐田戦、一昨年・その前の年の横浜戦、そこと並ぶかそれ以上の戦いだった。何よりフクアリの雰囲気も最高。誰かが誰かの為に戦う、「WIN BY ALL」の精神を形にしたような一戦だった。
サポも、選手も、スタッフも、誰もが充実した笑顔で勝利を喜び合っている。最高の空気だ。
ヒーローインタビューは巻。
またこれがサポ泣かせだった。代表の事をしきりに尋ねるインタビュアーに、
「今はジェフのチームとして戦っているので、ジェフの一員として勝利できた事を誇りに思う」と力強く切り替えした。
なんつーかね。こう言う言葉が最高に嬉しいのよ。このチームに誇りを持とうと、戦っている選手・監督から、そう言う言葉が出るのは。そう言って貰えない、苦しい時代があったわけじゃない。このフクアリの雰囲気、頼もしく成長した生え抜きの選手。本当に最高だ。
スタンド前に来た選手達の歓喜のでんぐりに、ハースの音頭で万歳!
さらに遅れて来た山岸と巻も万歳!
歓喜のオブラディに、ラ・バンバ揺れるスタンド。最高の一日になった。
さて、歓喜はここまで。
それにしても、次回からの浦和戦は、さらに熱い戦いになりそうだ。このまま引き下がるチームではない。個々の能力を考えれば、ここまで圧倒的な差のつく試合ではない、何がそうさせたのか。
もちろん、個々の力を前面に出すばかりに、組織が二の次になってしまったとか、分かりやすい得点源が居る事でどうしても周囲が頼ってしまう、そう言う側面もあるだろう。しかし、もっと大きな要因はこの試合に対して心の隙があったのではないかと思う。
浦和は今、『ビッグクラブ』と言われている。多くのサポーター、彼らが生み出す膨大な広告価値・資金力、それに見合う成績。負ける方がおかしいと言われるほどの、圧倒的な戦力。彼らは、クラブが大きくなる中で、いつの間にか周囲を見下すような心の隙が出来ていてしまったのではないだろうか。
元々、J開幕時からジェフも浦和も下位に低迷して苦しい時代が続いた。
それを思えば、まだ両チームとも何も成し遂げていない状態といえる。浦和が、クラブの規模を忘れてチャレンジャーとして戦うとき、それは強烈な敵となっているだろう。半年後、今度は埼スタで戦う。その時にはお互い上位同士で、今日以上のサッカーをやって、そしてそれを打ち破って勝ちたいものだ。
いろいろな面で正反対な両チーム。
次も好勝負を。
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