寿人とソロモンが並び立った日 2020 J2第5節 vsツエーゲン金沢 〇2-0

寿人とソロモンが並び立った日 2020 J2第5節 vsツエーゲン金沢 〇2-0

2020/07/15(水)19:00
石川県西部緑地公園陸上競技場
J2第5節
金沢 0(0-2,0-0)2 千葉

<得点>
23分 千葉 40櫻川
33分 千葉 39見木

千葉公式
金沢公式
Jリーグ公式

17時前に届いたスタメンを見て、何かの冗談じゃないかと言葉を失った。
2トップに、寿人とソロモン。

ユースが生んだ最高傑作のストライカーと、
次代のジェフを担う規格外の逸材。

その二人が揃ってスタメンを飾るなんて。
何の心構えも出来ていなかった。
それがまさか、まさか。

スタメン10人入れ替えと言う大勝負も強烈なメッセージだったが、
2トップのインパクトはこれ以上ない大きさだった。

土曜日の試合から中3日。
夏の連戦が始まった。

ジェフは、2~3チームを組むことが出来る戦力がある。
尹晶煥監督も、ターンオーバーを考えているらしい。
そんな事前報道はあったけれども、実際にメンバーが変わるかどうかは分からない。
これまでもジェフは、分厚い戦力があると言われながら、主力組と、サブ組は明確に分けられ、その戦力の全てを生かし切る事は出来なかった。

それが、このスタメンだ。

10人のメンバーを入れ替え、まったく別のもう一つのジェフを送り込んできた。

ただし、GK新井章太は代えていない。

ここ数試合、章太のセーブにどれだけ救われて来ただろう。
攻められながらも、最少失点で踏み止まっている原動力は、間違いなく章太のファインセーブと、最後尾から彼が発するコーチングによってもたらされていた。

尹晶煥監督は、彼こそが扇の要と見込んだのだろう。
思いつきや、テストではなく、勝算のある博打をこの金沢戦で仕掛けてきた。

敵将・柳下監督は、10人のメンバー変更に驚きを隠せず、
前節までのメンバー個々人への対策は目論見を外れ、
「自分たちのサッカーをやるだけ」と切り替えるしかなかった。

金沢も、この試合から観客を入れてのゲームとなる。
降りしきる梅雨の雨の中、選手入場。
ジェフは一番最後方に、ソロモン。

そして、円陣が解けると、ソロモンと寿人が前線に立った。
この二人姿はたまらない。
かろうじて『間に合った』。

試合は、ホーム金沢が、マンマークを主体とした前線からのハードワークでジェフを押し込め、それを守備を固めたジェフが受け止める展開となった。

大宮、水戸、栃木、いずれの試合とも同じで、相手がボールを持つ時間が長く、ジェフはなかなか攻撃へと移る事が出来なかった。とりわけ序盤はそれが顕著で、近い距離でもなかなかボールを繋ぐことが出来ない。

前節まで攻守の中心を握っていた田口のように、全体を俯瞰してコントロールする事が出来ず、局地戦でのつつき合いがしばらく続いていた。

手数の多い金沢の方が先にチャンスを作る。
前線に君臨するルカオを起点に、生きの良い若い攻撃陣が積極的にリスクを冒してくる。

7分には右からクロスを入れられ、ルカオ、西田と繋がれシュートを浴び、11分にはロングボールの処理をしきれず、鳥海があわやOG。が、新井章太が間一髪で弾き出す。

序盤のピンチを凌ぐと、徐々に流れはジェフに。
フリーキックから、ソロモンがポストで旭がファーストシュート。
直後にも、タメが左サイドから一気に駆け上がってペナルティエリアに侵入するも、金沢も必死の戻りをみせてブロックされてしまう。

流れを掴みつつあるなか、『その時』は唐突に訪れた。
最後方からアバウトなクリアが前線に上がる。
センターサークル付近で寿人が競り合い、ボールは旭へとわたる。
その外側から、ゲリアが一直線に駆け上がり、ボールを出した旭が、その大外へ向けてさらに駆け上がっていく。

二枚刃。
前節出来なかったサイドの連携がここで噛み合うと、ボールはゲリアから再び旭へ。
切り替えし、左足で狙いを定めて前線にボールを送り込む。
その先には、ソロモン。

金沢GK白井が手を伸ばしたさらにその上。
高い。
ヘディングで競り合うと、ボールは足下へ。角度の浅い、難しいシュートだったが、冷静にインサイドでネットへ蹴り込んだ。

思わず、画面の前で手を叩き、大声を上げてしまった。
初先発、初ゴール。先輩たちから祝福を受け、まだあどけなさが残る顔に笑顔がこぼれる。
『櫻川ソロモン』の名前が、ジェフの歴史に刻まれた瞬間だった。

ソロモンは、このワンプレーだけでなく、ターゲットとしてボールをキープし、柔らかいボール捌きで前線の起点となった。正直、半年前に卜伝の郷で観た時とは、別人かと思うほどあらゆるプレーのレベルが上がっていた。
短期間とはいえ、スペインへの留学で大きく成長したのだろうか。

ルーキーの活躍に、寿人も黙っていなかった。
32分、為田の左クロスに、加速装置でも作動させたように寿人がヘディングで合わせる。キーパーは、もはや一歩も動けないような強烈な一撃だったが、ボールはポストを叩く。リバウンドが強すぎて、旭は合わせ損なったものの、その後ろから見木が右足を振り抜いてゴール。

ソロモンの活躍に見木も続いた。

若手の2ゴールで、アウェイで2点のリードを奪うと、今度はもう一人のベテラン、新井章太が魅せる。金沢のコーナーキックから4番石尾にドンピシャのヘディングを食らうが、これをまたもスーパーセーブ。ゴールを割らせない。

金沢の反撃に遭い、シュートは撃たれるものの、最後は新井章太が立ちはだかった。
2-0で前半が終了する。

後半、寿人に代えて、浩平がピッチに登場する。
ポジションはそのままFWの位置に入る。
ソロモンがターゲットになるので、4-5-1のようにも見えなくはないが、旭や為田よりも高い位置をキープする。

後半も、「攻める金沢、守るジェフ」と言う構図が続く。

試合後、敵将・柳下監督も、インタビュアーの質問にイラつきながら、攻める事も、崩す事も出来ていたが、ホールだけが決まらなかったんだと臍を噛んでいた。

何度となく攻め込まれた。
もう少しセカンドボールを落ち着いて繋げれば、より楽な展開に持ち込めたのではないかとも思う。紙一重のピンチを決められていたら、勝ちは無かったかもしれない。
しかし、いくら攻め込まれても、ゲリアをはじめとして最後の最後の局面で体を張ってブロックし、そして誰より、新井章太が金沢にとって、高い壁として立ちはだかった。

ジェフは、水戸戦同様に、分厚いベンチメンバーを駆使してプレッシャーをかける。
65分、旭に代えて船山。そのまま右サイドへ。
76分、直前のプレーで足を攣ったソロモンに代え、川又。
そして、90分には、鳥海に代えて岡野、為田に代えて小島を投入し、時間をすり潰しながら、ゲームをクローズさせていく。

金沢は、次々と活きの良い若手選手を投入し、最後まで攻め立てて来た。
終盤、ジェフがゴール前を固めても、隙あらば際どい軌道のミドルを放ち、ゴール前に躊躇なく突っ込んで、ゴールを狙って来ていた。盾の上から、何度も何度も剣を叩き付けてきた。

もしも、前節、矢野にやられたように、早い時間でゴールを奪われていたら。
試合展開は、全く逆であったかもしれない。
しかし、ゴールを割られる事は最後まで無かった。
2-0、クリーンシート。
若手が決め、新井章太、ゲリアをはじめ、守備陣の奮闘が掴んだ勝利だった。

試合後、尹晶煥監督は、ホッとしたような表情を見せ、会見に臨んだ。

『正直なところ不安な部分もありましたが、大きな冒険をしました。今日の勝利で、多くの選手を活用できる可能性を探ることができました。』

今日、一番の勝利を掴んだのは、尹晶煥監督だ。
先発10人変更、ソロモン先発と言う、大きな勝負に勝ってみせた。
これは、かつてオシム御大がファンタジスタを全員同時起用して、それが機能しないことを『わからせた』ように、全選手が戦力である事を、強烈に『わからせた』、メッセージ性の強い勝利だった。

若手も、ベテランも関係ない。
誰もが、試合出るチャンスがあるのだと。

これから続く連戦の入口で、チームにとって本当に大きな意味ある勝利となった。

殊勲の決勝点を挙げたソロモンに対しては、

『この1試合ですべてを評価するのは違うと思いますし、この試合をきっかけに本人がもっと努力をするのであれば、さらにいい選手になると思います。』

と、周囲が過度にもてはやさないよう、釘を刺すようなコメントを残した。。
ただ、その言葉も、杞憂に終わりそうではある。

試合後、インタビューに応えたソロモンは、浮ついたところが無く、プレーを振り返って冷静に自己分析をしていた。彼の中で、目標はもっと高いところにあるからだろう。スペイン留学を経て、その目標はより現実的なものとしてイメージ出来ているに違いない。これは通過点でしかない。

それにしても、これで次節以降が楽しみになった。
対戦相手からしても、誰が先発するか、予測は相当に困難になっただろう。
新井章太以外は。

3日後、対戦するのはヴェルディ。
若狭、近藤、小池に、そしてカズの着けていた11番を纏うのは、まさかの遥也。
強化部には、エジさんも居る。

元ジェフ勢を相手に、どんなメンバーでどんな戦いを見せるか。
次はフクアリでの勝利を期待したい。