全てが有耶無耶の最終戦。思いは引き継がれるか。 第42節 vs栃木SC ●0-1

全てが有耶無耶の最終戦。思いは引き継がれるか。 第42節 vs栃木SC ●0-1

2019/11/24(日)14:00
フクダ電子アリーナ
J2第42節
千葉 0(0-0,0-1)1 栃木

<得点>
71分 栃木 30田代

ジェフ公式
Jリーグ公式


栃木SCの関係者の皆さん、J2残留おめでとうございます。
「最後まで諦めない」と言う言葉は、2019年においては栃木にこそ相応しいものでした。

この一戦に勝利する為に全てを賭けたチームと、
もうシーズンが終了していたチームとの対戦。
勝利に対する想いの強さが、あのゴールを生み、
他会場の結果をも呼び込んだのだと思います。


2019年最終戦。
ホーム・フクダ電子アリーナ。

20年の現役生活を終える勇人のためと、クラブOBが集い、コメントを寄せたこの試合。
違和感を感じずにはいられなかった。


(左)イリアン・ストヤノフ氏 (右)鈴木隆行氏


(元監督 ズデンコ・ベルデニック氏)

まだ、れっきとしたレギュラーシーズン。
それも、過去最低の成績だ。
にも関わらず、順位も、勝ち点も関係ない、イベントの引退試合のような空気。

そうでもしなければ、『興行』であり、『売り上げ』を立てなければならない、プロサッカーの試合。
波風を立たせるより、穏便に終わらせたい、終わらせなければならない思惑。
そこには、勝負へのストイックさは感じられなかった。

「勝つぞ!」と念じながらも、
「負けるな、この試合」
そう感じてしまっている自分がいた。
何のためにこの試合を戦うのか、見出せないまま、ビッグフラッグを片付けてゴール裏に戻った。


スタメン。
勇人、寿人は先発を外れた。
勇人に関しては、江尻監督はスタメンで使いたい考えだったようだが、コンディションが残念ながら整いきらなかったようだ。
ただ、直近数節のプレーを見れば、小島先発は妥当だったろう。

右サイドには、見木。
堀米ではなく、彼を抜擢したところに、監督の期待の大きさが伺える。

対する栃木。
ここまで2勝1分で直近の3試合を終え、自力残留に向けてスパートをかけている。
オーソドックスな4-4-2の布陣。
枝村、大崎といった力のある中盤。
前線には、ヘニキと榊がプレス役として配され、
勝負どころに備えて、リザーブには大黒が控える。

キックオフ。
ホームでの勝利を目指し、攻勢をかけるジェフ。
序盤は良かった。10分過ぎ、見木が自ら仕掛けて、左足で強烈なミドル。
思い切りの良いプレーでスタンドを沸かせる。

その後もボールキープは圧倒的にジェフで、栃木はなかなか攻撃が仕掛けられない。
いや、仕掛けてこない。しっかりとブロックを作り、ジェフの強みを潰しに来ている。
両翼にはクロスを上げさせないように複数でマークがつき、中央のクレーベにも「ここさえ押さえてしまえば」と言うかのように、挟み込んでボールを収めさせない。リトリートする為にボールを戻せば、ヘニキ、榊が、所かまわず追いかけてくる。フィジカルコンタクトを厭わないヘニキに、下平がつっかけられ、いら立つ場面もあった。

得点を奪って、勝たなくてはならないのに、守りを固める栃木。
固い塹壕に何度も突撃を繰り返すうちに、ジェフは消耗し、攻め手が分からなくなり、機能不全に陥りつつあった。

迎えた後半、今季最後の円陣ダッシュ。
このメンバーで戦うのも、これが最後の45分間だ。

後半も先に仕掛けたのはジェフだった。
封鎖されたサイドをこじ開けてクロスを上げ、クレーベ、船山に合わせようと試みる。
あるいは、セットプレーから米倉のヘッド。新井も、「あと一歩」のところまでボールに突っ込む。
そして、クレーベが、マーカーを剥がし。抜け出して放ったシュートは、GK川田が指先で弾き出してしまう。

この試合でも、「ここで決めきれていれば」、勝てた展開だった。
しかし、残留に賭ける栃木の気迫がそうさせたのか、シュートは枠を外れ、あるいは届かず、キーパーの必死のセーブにも遭って、ゴールを割ることがどうしても出来ない。

じわりと時間が過ぎる。
65分過ぎ、エベルトが足を痛め、交代を余儀なくされる。
ここで、エベルトに代えて増嶋。
さらに、見木に代えて勇人が投入される。


スタンドから大きな歓声。
船山が勇人の腕にキャプテンマークを巻き付け、さあ、いくぞとフクアリの空気が熱を帯びる。
ほとんど同時に栃木も動く。榊に代えて大黒。

試合後、西部さんの「犬の生活」や、twitterの投稿のいくつかで、このゲームの試合展開を2012年の国立でのプレーオフ・大分戦に重ねる投稿があった。あの時の大分の監督が田坂さん。そして、耐えに耐えた大分が、終盤に投入したのがタケ。その役割を担ったのが、大黒だったと。

『勝負どころ』と田坂監督がみた、この交代を号令に、これまで守りに徹していた栃木が攻勢に出る。
交代から2分後、セットプレーからの一連の流れ。右からのクロスを、攻め残っていた田代が、オフサイド気味ながら頭でねじ込んで均衡を崩す。揺れる、栃木のスタンド。まさに、この一撃に賭けた、栃木の残留への気持ちの込められたゴールだった。

ホームで負けられないジェフは、ここから遮二無二なって攻める。
しかし、ボディコンタクトも時間稼ぎも厭わない、捨て身の栃木を崩せない。

82分に、小島に代えて寿人を投入。
が、このチームは、今年最後まで寿人を活かすことが出来なかった。
前線で、俺にボールをよこせと駆け引きするが、そこにボールは出てこない。

はじき返されたボールに勇人が必死に食らいつき、他の選手たちもゴールに迫るものの、生きるか、死ぬかの瀬戸際にいる栃木を崩すことは最後まで出来なかった。


試合終了。
今季、何度目のフクアリでの敗戦だったろう。
最後も連敗。負け慣れ過ぎてしまっていた。

栃木のJ2残留決定は、他会場の結果次第だった。
しばらくして、ひときわ大きな歓声がアウェイ側から起こる。
鹿児島が福岡に敗れ、栃木の残留が決まったのだった。
ジェフサポからも、栃木の健闘に拍手が起こった。

ああ、あの時のスタンドは、「こう」見えていたのかと、ぼんやり栃木の様子をみやっていた。
ここは、フクアリ。ジェフのホームであるというのに。


シーズン終了のセレモニー。
社長代行の穐山取締役が、挨拶を行う。
その後ろで、目を閉じて何かを耐え忍ぶような江尻監督がいたたまれなかった。


結局、セレモニーでは、監督からも、GMからも言葉を発する時間は設けられず、
選手スタッフの場内一周も、その後に勇人の引退セレモニーが控えていた事もあってだろうか。選手たちの隊列もてんでバラバラで、ゴール裏ではスタンドに近寄ろうともせず、ピッチと、スタンドの距離がとても遠く感じた。


勇人の引退セレモニーは、素晴らしいものだった。
おそらく、ここまでの待遇で見送られる選手は、自分が生きている内には、出てこないのではないだろうか。
クラブ側の演出も、サポーターの有志が作り上げた、彼の為だけの大きな幕も。

が、何よりも、勇人がゴール裏で語った言葉こそが、これから先の希望になるものだった。
20年。勇人がユースからトップに上がり、今日引退を迎えるまで。
それは自分のジェフサポとしての人生ともほぼ重なる。
紆余曲折の20年を経て、勇人が、悩み、考え、挫折も味わいながら、自らの中に、あるべきジェフの未来を描いている事に深い感慨を覚えた。

これまでに引退してきた他の選手たちと同じく。
何とかして、勇人とはJ1へ戻りたかった。
そして、江尻監督とJ1へ戻りたかった。

セレモニーが全て終わった後、ゴール裏で謝罪をした江尻監督。
準備万端の状態で、二度目の指揮を執って貰えなかった事が悔しい。
こんな謝罪をする江尻監督を見たくはなかった。
笑顔の江尻監督を、胴上げしたかった。

その江尻監督を担ぎ上げた高橋GMは、結局、この最終戦でも語ることはなかった。残念でならない。
1シーズン丸々、顔も見せなければ、言葉を発さない責任者の下で、クラブは一つになれるのだろうか。
彼と、「共に戦っている」という感覚は、まったくない。

その日の夜には、新監督の内定が発表された。
このクラブはまた、反省も何もないままに、すべてを有耶無耶にして来季への歩みを始めてしまうのだろうか。


2019年シーズンが終わる。
今季は一体何だったのか。
積み上げは無いに等しく「更地」と寿人は表現した。

J3降格目前のクラブ最低の17位。
その現実から目を背けては、来季はより厳しい結果になるだろう。

これまでの路線の継承もあやふやのまま。
ジェフの「芯」は何なのか。
それ定めずに仮に結果が出ても、監督がまた変われば容易に「更地」に戻ってしまうだろう。
クラブとしての「芯」を定め、「目標」を定め、それをジェフに携わる人たちに詳らかにし、クラブの考えを応援してほしいと、今こそ立ち止まって訴えるべきだろう。

それをやらずに走りだせば、どこかでまた歪みがたまってしまう。

勇人の思い、江尻監督の無念、無駄にしないためにも、クラブとして土台作りに時間をかけて欲しい。
必要なのは、問題を有耶無耶にせず、苦しい現実と正面から向き合うことだ。

ジェフは、一つの企業には違いない。
だが、同時にこのフクアリに集う、みんなのものであるはずだ。