熱い気持ちになった。
目の前で繰り広げられる逞しいジェフのサッカー。燃え上がるスタンド。スタジアムに駆けつけたサポも、来れなかったサポも、誰もが気持ちは一つだった。悔しくて、寂しくて、苦しかったあの日を乗り越え、ジェフに残った選択の正しさ、俺達のサッカーの強さ、想いの強さをぶつけた戦い。
見たか山本ジュビロ!これこそが俺達が誇る“ジェフユナイテッド”だ!
試合前から、ジェフサポのこの一戦に賭ける想いは尋常ではなく強かった。
平日にも関わらず、後援会のバス3台。その他クルマや電車を乗り継いで、千葉・東京から関西から、果ては昨日は仕事で海外に居たと言うサポまで。多くのサポーターがスタジアムへ駆けつけ、開門前から列を作った。
対する磐田の空気は安穏としたもの。負けが混んでいるとはいっても、危機感のカケラも無い。AWAY側のスタンド近くに貼られた、村井と茶野の断幕が、この試合への因縁を感じさせるくらいだ。
この時点で、勝負は決まっていたと言っても過言ではない。
開門してしばらく。ピッチに磐田の選手が姿を現す。テレビで、雑誌で散々サックスブルーのユニを来た彼らを見ていたはずなのに、どうしようもない感情の渦が押し寄せてきて、何かが切れた気がした。「ああ」と、ため息を吐いた後、すぐにブーイングに声は変わった。伝わらなかった想いは、もうピッチでケリをつけるしかないんだと、この時本当の意味で自分の中で二人の事を吹っ切る事が出来た。
村井・茶野・ヨンスのコールに続いて起こる激しいブーイング。
この日だけのために用意されたサポソン。
「絶対に勝つ」と言う強い気持ちに、ゴール裏は一つになった。そして、俺たちの選手が姿を現す。大歓声。一人一人の名前を呼ぶ。復帰の山岸に大歓声。スタメンも、サブも、帯同のタッキーと中島も、そしてオシム監督の名も。手を叩き、アタマを下げ、応えてくれる選手たちに、さらにコールで応える。磐田を圧倒する声援が、まだ人もまばらな磐田スタジアムに響いていた。
昼間の暑さが、ひんやりとした空気に変わる頃。いよいよ始まる戦い。
ピッチに現れた選手たちが、この上なく頼もしい。円陣ダッシュで散らばる選手達を、精一杯の声援で送り出す。
19:00キックオフ。
まずは仕掛けたのは磐田。前節東京戦で少し取り戻したと言われたパスワーク。やはり手ごわい相手なのか、そんな空気を漂わせる。茶野も積極的にゴール前まで進出。昨年までと変わらないアグレッシブさで、ジェフの前に立ちふさがる。櫛野の前に立つヨンスも、相変わらずの存在感だ。
しかし、様子見の時間も長くはなかった。
何故なら、この試合に対して一番気合いが入っていたのは、サポではなく当の選手達だったからだ。5分と経たないうちに、強烈なプレッシングの網が、磐田をズタズタに分断し始める。こんなに気合いの入ったジェフを見るのは初めてだ。一昨年のヤマハの磐田戦も、去年の臨海のマリノス戦も、ここまでの気合いは無かっただろう。スタンドまで、強い気持ちがヒシヒシと伝わるプレー。
球際で身体を張り、2人・3人・4人で囲い込み、ボールを奪うや全選手がゴールへのイメージを共有して一気に反撃に転じる。ダイレクトパスを多用した手数をかけないプレーで、数的優位を常に作って、跳ね返されても二次・三次攻撃を仕掛ける。「個」の力に頼り、運動量も少ない磐田を完全にワンサイドゲームへと押し込む。
先制は、阿部の素早いリスタートから。水野がドフリーで抜け出し、グラウンダーの高速クロスをハースが中央でアウトサイドに引っ掛けて真後ろの勇人へ絶好のパス。これを勇人が渾身の力でけり込む。川口も気圧されたのか、力無く倒れこむのみ。
さらに、セットプレー。ハースのFKを大輔が、まるで中山のような身体ごと押し込むヘッドで追加点を奪う。あっという間に2−0。鬼気迫るとはこう言うことか。「ジェフに残った選手達」の攻撃は全く緩むことなく、元王者を押し込んでいく。
磐田も、村井が強烈な右足ミドルを放ち、鋭いアーリーでヨンスを狙うが、如何せん単発。櫛野が野性的なセービングでゴールを死守し、素早いスローイングでチャンスを演出する。
対決が注目されたサイドも、前半半ばにはもう勝負がついていた。
西は、坂本のディフェンスに苦しみ、耐えかねて軽いプレーに終始。前半でベンチへと追いやられる。そして、ジェフの右サイドでは徹底した村井潰しが敢行されていた。主役となったのは水野。持ち前の攻撃力を前面に出して、常に勝負の姿勢でウラをつく。トラップがいいから、動き出しが早い。周囲もキレのある水野を意図的に使おうとしているのがハッキリわかる。勇人・羽生・巻らの援護を受けて、常に勝負の場面では数的優位が作られた。
村井は、もはや守備でも追いつかせて貰えない状態。危険なハズの右は、最大のチャンスを作り出す場となっていた。
磐田は、サッカーそのものを封じられ、まるで別のチームと戦っているような印象すら持った。ヨンスも、中山も何も出来ない。今日に限れば、中山よりもジェフの全選手は気合いが入っている。
圧倒的な展開のまま。長いようで短い前半が終わった。
「おし!」と思う自分を抑えて、「まだ0−0と一緒だ!」と気持ちを落ち着ける。何も終わっていない、これからが勝負だとみんながわかっていた。
気合いを入れ直した後半。アクシデントは突然訪れた。
右から羽生が崩しにかかり、これを茶野が引っ張って2枚目のイエローで退場。阿部に慰められ、ピッチを後にする茶野。後姿が寂しい。とにもかくにも、これで11人対10人。菊池を河村の負傷で既に使っている為、服部を下げて穴を埋めようとする磐田。これで中盤はいよいよスカスカになり、「蹂躙」と言う言葉がピッタリ来るような展開になった。
そうこうしているうちに、前線で孤立していたヨンスが、ついにカレンに交代。結局、ヨンスもまた、何も出来なかった。
勢いのまま、3点目を突き刺したのはジェフ。
「次の1点を相手に入れられたら、相手は生き返る。もう1点取る気持ちでいこう。」
オシム監督の言葉に後押しされるように、右から崩した巻のクロスは、村井に当たって羽生の足元へ。これを倒れこみながら流し込んで勝負を決める3点目。笑顔でゴール裏へ歩み寄る羽生を、すべての選手が祝福する。歌い狂うオブラディ、「もっと!もっとだ!」とスタンドを煽る勇人、この試合にかけた想いが爆発した瞬間だった。
その後、カレンに1点返され、決めなくてはいけないチャンスを外し続けたのは課題だったが、試合が終わる前に磐田サポを家路につかせ、試合内容でも応援でもすべて圧倒した最高のリベンジだった。山岸の復帰までオマケにつく完璧な一戦。終了の笛が鳴り、うな垂れる村井と入れ替わりに、俺達の選手がやってきた。
でんぐりに、大歓声。誰もが、最高の笑顔で出迎える。勇人がまた煽る、阿部が「見たか!」と大きくこぶしを突き上げる。
ああ、お前ら最高だぜ、信じてたよ。お前らを!
そして、ああ畜生。山本!
10年育てた村井と茶野をこんなにしやがって。。。でも、ヨンスも含めて、今日が区切りなんだ。大好きだったぞ、3人とも。これが、お前達と一緒に作りたかった、ジェフのサッカーだ!
このチームを信じた全ての人の力で掴んだ大きな一勝。
一番気持ちが入っていただろうオシム監督。この試合の間、ずっと立ちっぱなしだった。監督が絶賛した展開。誇るべき指揮官の下でジェフはまた一つ強くなった。だからもっと皆で彼らを応援しよう。このチームは、かけた期待に応えてくれるチームへとなったんだ。
さぁ、次は首位・鹿島戦。今日、ここへ来れなかったサポーターも一緒に、黄色く染まった国立で、さらに上を目指そう!