快晴の日本平。大雨、雷、停電、惨敗よ縁起の悪いスタジアムだが、今日は澄み切った空のように不安を振り払う気持ちの良いサッカーを見せてくれた。
前節から、サンドロ・林が復帰。ようやく攻撃の駒が揃った市原。トップ下1枚には久々に羽生が戻り、その他はオマーン帰りの茶野も含めて不動。マルキを除くベストメンバーが揃った。対する清水も、前節で磐田を撃破し勢いがある。しばらく前まで、サッカーの方向性すら定まらずに、端から見ていても大丈夫かと思ってしまうような危うさはもう無い。
厳しいゲームになるだろうと思っていた通り、すっかりスロースターターになった市原は序盤から清水の攻勢に押し込まれる。玉際に強い清水の選手たちから、なかなかボールを奪えない。奪っても、前線の巻に簡単に合わせようとして跳ね返される。パスミスも重なり、神経質な岡田主審の笛にもゲームが分断されて、なかなかペースを握れなかった。
イラつきからサンドロが主審に抗議してしまい、あわや異議でレッドを貰うかと言うシーンも。ここまでは厳しさばかりが目についた。
ただし、決定的といえるピンチはほとんど無く、攻め込まれながらもいなしているような展開。その後、前半20分が過ぎる頃から、段々にゲームが落ち着いてきた。
ここから羽生・阿部が目立ち始める。羽生のチェイシングは効果的に清水の選手からパスの出し所を奪い、阿部のインターセプトは攻めに転じようとする清水の出鼻を挫いて、市原にチャンスをもたらした。
そして何より今日は、遠目からでもシュートで終わろうという意識がハッキリしていた。フリーになると、ボランチやセンターバックの選手も果敢にシュートを撃っていく。「いつ撃って来るかわからない」攻撃が、清水DFの体を当てるポイントを迷わせ、スペースを作っているようだった。
アーリークロスから羽生が切り返してシュートしたシーンなど、得点の気配を感じさせるシーンが時間を経るごとに増えてきた。
後半になり、さらに市原らしさが更に増していく。
茶野・大輔が果敢に前線に向けて攻撃参加、清水のマークをさらなる混乱に誘い込む。うっかり倒せば、岡田主審の笛が鳴る。阿部のFKが弧を描いて、GKがかろうじてかき出す。攻勢が続く中、サンドロが左サイドから中へ切れ込んで中央から右足ミドル。W杯のクエバスを彷彿とさせる一撃で、ようやく均衡を破ってみせる。
歓喜をジョゼさんと分かち合うサンドロ、相当に嬉しかったのだろう。試合前から続いたサンドロコールの期待に応えるゴールだった。
この後も市原の攻勢が続くが、巻が絶好機を外した直後にチョ・ジェジンをフリーにしてしまい、櫛野が弾いたところを押し込まれて同点とされてしまう。ここまでの展開が、良い流れで来ていただけに数分間の攻防が悔やまれる、嫌な空気となってしまった。
清水は、この流れに乗じて攻め立てるが、市原守備陣も踏ん張って苦しい時間を耐え抜く。
後半も30分を過ぎたところで市原は切り札の林をサンドロに代えて投入。カウンターの体制を固めて、狙いを明確にする。さらに、残り時間も少なくなったところで、工藤の選択肢もあったはずだが、監督は地元・清水商業高校出身のルーキー水野を投入。水野は、ここのところサテライトでずっと好調を維持していたが、その期待に応えて最初から全開でゲームを活性化する。
コーナーキックを進んで蹴り、こぼれ球をドリブルで持ち込んでチャンスメイク。坂本をボランチへ、勇人をトップ下へ動かし、本職の右アウトサイドに入ってドリブルからチャンスを作ってみせた。
それでも時間は過ぎ、ロスタイム。
久保山のアタマを狙った危ないクロスもあり、いよいよ引分けも覚悟し始めた時間帯。阿部が奪ったボールを林に預けると、林は左にスライドしながら一直線にドリブルを開始、右に流れる巻に釣られてがら空きになったスペースへDF2人を置き去りにして駆け抜け、最後は冷静にキーパーのヨコをコントロールシュートで抜いてみせた。
劇的な決勝弾に歓喜に沸くイレブン、ベンチ、スタンド。今季最高とも言えるお祭り騒ぎになった。
残りの僅かな時間も、巻や林が体を張って時間を潰し、タイムアップ。
鬼門・日本平を見事に粉砕し、本当に久々に爽快な勝利を戴いた。
選手・監督の顔にも、隣り合うサポーター達にも満面の笑み、忘れていた歓喜を「オブラディオブラダ」で存分に味わった。
このゲームの勝因は、これまで出来そうで出来なかった事がきちんと出来た事にある。
・シュートを撃つこと
・切り替えを早くして、攻守のフォロー枚数を増やすこと
・プレス/競り合いで手を抜かないこと
基本的な事ばかりだけれども、悪い時にはそれが出来ない。浦和戦の大敗が、逆に選手たちに良い意識転換をもたらしたのかも知れない。そこに、個人技を織り交ぜたプラスアルファが勝利を引き寄せた。
久々の快勝は、自信を取り戻して、これからの戦いの切り拓く大事な一勝になるだろう。
本当に、この青空のように爽快で劇的な勝利だった。林、最高!