「楽しかった!」試合後の第一声。
世界最高のクラブ相手に、市原の持てる全てをぶつけて戦い抜いた90分。「やれるだけの事をやった」と言うオシム監督の言葉は、選手もサポーターもきっと同じ気持ちだっただろう。
待ちに待った試合。当日の自分は、職場の四ツ谷から先日届いたトップ仕様ユニを羽織って国立に直行する。
心配された天気も、試合前になって落ち着いてきた。うっすらと虹が、国立の上にちょうどかかっていた。スタジアムの周りの雰囲気、バッタものユニ屋や露天もこの「お祭り」を盛り上げていた。
スタジアム到着、ゲートにレアルと並んで市原!いやがおうにも気持ちが高まる。
大急ぎでスタンドに入ると、思った以上に人で埋まっている。だいぶチケットが余ってると言う話もあったが、アウェイ側バックスタンドよりの冗談が空いている以外は満員。サポーターエリアは、なんだか同窓会のように、新旧馴染みの顔がたくさん居るのが嬉しい。
ウェーブとかで無闇に盛り上がっているうちに、オーロラビジョンで今日のベンチ入りメンバーが伝えられる。坂本・羽生の名前が無い・・・ん?トンス!?22人まで拡げられたメンバーの中には、二種のトンスまで。スタンドからは、妙な期待感と、この面子じゃヤバいんじゃないか!?と言う不安が半々。
逆にレアルのメンバーには、ただ感嘆のため息。カシージャス、サムエル、ロベカルに、ベッカム、フィーゴ、ジダン、ラウール、モリエンテス、ロナウド・・・ですか・・・。この中の一人でも「J」を変えられてしまう存在ばかり。でも、サッカーは名前でやるんじゃない。同じ11人、下手な試合は見せられない。
7時が過ぎ、スタメン発表。
なんと、一人づつピッチに駆け込んでくるオールスター方式。市原はゲームキャプテンの大輔さんから。駒が足りない今日は、トップ下を削り、リベロの前にストッパーを3枚並べる4−4−2の布陣。期待の水本が先発、フィーゴと相対する左ストッパー。
対するレアルは、ジダン・ロナウドを欠くものの・・・その代役がグティにモリエンテス・・・やっぱり洒落になってない。
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<市原>
GK櫛野、DF(LB)ミリノビッチ、(ST)水本・大輔・結城
MF(VL)勇人+中島、(LWB)村井、(RWB)山岸、
FWマルキーニョス+サンドロ
<レアル>
GKカシージャス、
DF(LB)ロベルト・カルロス、(CB)サムエル+パヴォン、(RB)サルガド、
MF(VL)エルゲラ+ベッカム、(LMF)グティ、(RMF)フィーゴ、
FWラウール+モリエンテス
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選手たちがピッチへと散り、オープニングの『あっこちゃん』に乗って試合が始まる。
序盤から攻勢を仕掛けるのは市原。様子見のレアルに対して、左の村井や前線のマルキーニョスが積極的に仕掛けて、チャンスを演出する。一つ一つのプレーが正確なレアルに対して、市原が対抗できるとすればとにかく運動量。いつになく速いプレスでレアルにプレッシャーをかけ、揺さぶりをかけていく。
6分。遠い位置からのFK。マルキーニョス。
30mはあろうかと言う距離から、弾丸のシュートがカシージャスの指先をかすめて行く。まさかまさかの市原先制!サポ席は狂喜乱舞、とんでもない大騒ぎになる。
しかし6分。レアルは慌てず騒がず、ゆっくりと市原の戦い振りを見定めていく。必死のマンマークを引き剥がすように、引きつけてボールを散らし、フィールドに「穴」を作っていく。もちろん、一回レアルボールになれば、容易に市原ボールにはならない。
ボールを追いかける市原だが、要所要所ではレアルもしっかりと走っている。これだけの個人技を持ちながら、地味な繰り返しの部分でも手を抜かない。W杯で観たアルゼンチンのように一流どころの手抜きの無いプレーは感動的だ。
徐々に崩されていく市原守備陣。それでも、櫛野が相変わらずの反応で最後の一線を割らせずにいる。
23分、ベッカム→フィーゴ。アウトサイドで前に緩やかなスルーパス。そこに当たり前のように駆け込んでいたのはグティ。コースを突いたシュートが、きっちりと枠に収まっていた。
さらに、36分。ラウールが一回倒れこみながらもすぐに体制を立て直して、これもコースをしっかりと突いたシュート。あっさりと逆転。憎らしいまでの正確さに、これが当たり前のことなんだと思い知らされる。
この間、波状攻撃からの勇人の惜しいミドルもあったが、そのまま前半終了。
予想以上に「試合になっている」展開に、スタンドも興奮。しかし、それにしてもレアルの攻撃は「形」と言う物が無い。どこからでも、何かが出来る。サイドに固執する事も無いし、とにかく最短距離で急所を抉ってくるような攻撃。手順を踏まなくては「形」にならない市原とは考え方そのものが違う。
後半に向けて市原は、マルキ→林、中島→巻。4−3−3にシステムチェンジし、あくまで攻撃的に反撃の機会を窺う。
前半、ベンチでうずうずしていたのだろう、ようやく俺の出番だとばかりに、林が快足を飛ばして左サイドを駆け抜けていく。サルガドも、林がどう言う選手か分からなかったのか、虚を突かれてクロスを許す。しかし、これは巻に合わず。
あまりの暑さ・湿度もあって後半は、レアルの攻撃に無理をして攻め込んでくる様子は無い。その間隙を突いて、サンドロや村井、前述の林が強引に突破を仕掛けていく。特にサンドロは人が変わったような動きで、決断の早いシュートを打ち込んでいく。
村井の左クロスから林のスルー→サンドロのシュートや、林の体制を崩しながらのシュートはいずれもレアルの体を張ったディフェンスに食い止められる。カシージャスを抜いても、その先にカバーが入っている。やはり、トップレベルではこう言う部分でも手抜きが無い。
市原は、楽山・市原・工藤・水野と言う若手を次々と投入。この舞台を少しでも体験すれば、何かを得られる。どの選手もピッチに飛び出すや、精一杯のプレーをしてくれるのが観ている側も嬉しかった。
何とか追いつこう、スタンドの応援も必死さを増して最後まで声を振り絞った。
ジェレも、大輔も機を見て攻撃参加。久々に観る、市原らしい「走るサッカー」がピッチ上でレアルに必死に喰らいついていた。試合も終盤になって気付いたのは、この試合の中で「気付く」事が出来た市原の選手は、ワンタッチでゲームを進めるようになっていること。このレベルになると、そうしないと戦えない事に気付いていつにも増して速い展開を意識していた。逆に気付けない選手のところで、ボールが止まっていたように思う。
終わらないで欲しい・・・そう思っても時間は過ぎ、市原は攻めて、最後はソラーリにもう一点を加えられたが、今出来る精一杯はした。
この試合でレアルが見せた、局面局面で絶対に手を抜かない姿勢、最後まで諦めない執念、そして何より素晴らしい技術の数々と、それに相対して通じたもの通じなかったものそれが体験できた事は何よりの収穫だったと思う。
市原は、久しぶりに自分たちのサッカーを取り戻していた。
選手が選手を追い抜き、DFまでが攻撃参加するサッカー。開き直りなのかも知れないが、全員が挑戦する意志を持って、レアルにぶつかって行っていた。その結果の一得点であり、惜しいチャンスも演出してスタンドに、そしてこの試合を観た全ての人に「市原ありき」を見せつける事が出来た。
監督のコメントも、満足げなものだった。
この「お祭り」をそれ以上のきっかけとして、市原が自分たちの迷いを断ち切ってくれたなら、この試合、市原にとってさらに何ものにも変えがたい経験となってくれるだろう。
それにしても、選手もスタッフもファンも、皆が楽しむ事の出来た「夏祭り」だった。レアルと、この場を与えてくれた人たちに感謝したい。
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【選手評価】
<スタメン>
GK櫛野:動物的な反応でレアルの攻撃を幾度も防いだ。市原が攻撃に専念出来たのも、彼への信頼が大きい。
DFミリノビッチ:再三再四、レアルの鋭いクロスを弾き返し、ストッパー陣の後ろで突破してくる相手を押さえ込んだ。攻撃参加も終盤にかけて見せ、大車輪の活躍。
DF水本:フィーゴのマンマークを担当し、そしてその仕事をかなりのレベルでこなした。前回の浦和戦に続くハイレベルの活躍で、一躍スタメン候補に。
DF斎藤:主にラウールをマーク。相変わらずの体を張った守備で貢献。終盤は、ジェレ同様に攻撃参加も。
DF結城:主にモリエンテスとマッチアップ。正直、ついていけていない場面もあったが、奮闘していた。右サイドを上がってクロスを上げるシーンも。
MF勇人:ベッカムと対峙。激しい守備でボランチらしい働きだった。前後半通じて攻撃に顔を出すシーンも多く、前半には僅かにはずれたものの惜しいミドルも。
MF中島:吹っ切れる事が出来なかったか・・・翻弄されてはスタミナを失い、前半だけで交代。
MF村井:怪我明けで正直動きは鈍かったが、後半のビッグチャンスを演出した左クロスの場面では、サルガドを完全にかわして素晴らしいグラウンダーを上げて見せた。
MF山岸:攻撃面では、中に切れ込んでシュートを狙う彼らしいプレー。反面守備は、少々おろそかになっていたか。足を吊って、グティ&ロベカルに助けられて?交代。
FWマルキーニョス:レアルのド肝を抜くレーザービームのFKで日本のクラブチームとして初めてレアルのゴールを破って見せた。集中力はさすが。
FWサンドロ:別人のような思い切りのいい動きで、局面でも体を張って起点となった。カシージャスを脅かす、惜しいシュートも2本。
<リザーブ>
FW巻:後半から出場も、なかなか思うようにはプレーさせてもらえなかった。レアルDFの強さ・高さが今後の糧になれば。
FW林:左翼からの突破、無理な体勢からの惜しいシュートなど持ち味を存分に発揮した。スピードだけでなく、ボールを追う姿勢にも試合の中での成長を感じる。
MF楽山:攻撃面で繋ぎ役になっていた。ボールを他の選手に預けた後、そのスピードを殺さずに前に出れるようにしていたら、もう少しチャンスがあったのかも知れない。
MF市原:勇人に代わってボランチ的な位置でプレー。体を張った守備と、積極的な前線参加を行い、彼らしい泥臭いシュートも放った。
MF工藤:時間が少なかったが、前線になんとかボールを供給しようと運動量と、展開で奮闘していた。
MF水野:デビュー戦がレアル戦と言うのは日本でも彼くらいなもの?右サイドからアーリーを流し込んだり、時間が無い中でゲームにはしっかり絡んでいた。
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【戦利品】
(1)レアルvs市原のバッタものタオルマフラー(\1,000-)
イタリア製?らしい。日付入りで結構涙モノ。試合後には完売。
(2)産経新聞のタブロイド版の号外。
レアルと、市原・東京Vの紹介が載っている。