■何度見せれば気が済むんだ。こう言うキーになる試合での「取りこぼし」を。
残留に賭ける京都との一戦、もちろん彼らの気合と負傷者の続出したチーム状態、様々な要素を考えればこの試合が楽勝できる一戦だったとは言わない。だがしかし、こんな内容を見せる試合でもなかったはずだ。
大混戦のJ1。残り4試合はトーナメント、それを考えればこの試合の重要性は解っていたはずだ。勝って臨海に戻らなくては、市原市の企画した集客策も効果が無くなってしまうというのに・・・それが解ってのあの試合だったのだろうか・・・。
重要な試合で負ければ、観ている側は怒る。
でも、今日の試合はただの負け以上に怒りのこみ上げる敗戦だった。前半の15分まで、1失点目から3点目を失うまで、試合終了まで残り5分間の林を中心とした猛追。これが一つのチームとは思えない程に鮮やかなコントラストを描いていた。
前半の15分まで。
市原の猛攻。全く京都を寄せ付けずに、両翼は抉り放題。村井・山岸の最深部からのクロスが京都ゴールに襲い掛かる。ここで1点を奪えずに、さらに前掛かりになったのが1つのポイントだった。
そして、1本のカウンターが流れを変える。フラフラと前線の黒部に届いたボール。茶野が体を寄せる。しかし、ずるずると引きずられ、そのままコロコロと弱いコントロールシュートが櫛野の脇を通り過ぎる。京都の執念が乗り移ったゴール。だがしかし、焦る要素は無かったはず。15分までの流れを続ければ、逆転は容易だったはずだ。だがしかし、あっさりと市原はペースを譲り渡してしまう。
途端にバタつくディフェンス。チームがチームとして機能しない。さして鋭いとも思えない京都のカウンターが、さらに前掛かりになった市原の背後を突く。危ういシュートを櫛野がなんとか防ぐ。訳がわからないまま、時間だけが過ぎて行く。失点から5分と経たないうちに、「この試合負けるかも知れない」そんな不安が頭をよぎる。
そのバタついた展開のままに、前半が終わる。
「中島なんて先発で使うからだ」「いや、そんな問題じゃない」「監督なら何とかしてくれるはず」「後半から巻だ」「とにかくまだ1点だ」そんな声が、スタンドを行き来する。あまりの不甲斐ないチームに、サブの林・巻・工藤・結城にスタンドから大きなコールが起こる。
後半になれば、なんとかなる。
そう固く信じていた。でも、それは裏切られる。これまでも裏切られて来た、そのままだ。カウンターが決まり、黒部の素晴らしいミドルが決まる。その瞬間、エース・崔龍洙はボールを追わなくなった。
前半の戦犯、茶野が林に代わる。そして崔龍洙も巻に交代。その二人が必死に前線を活性化させる。けれども、後半35分に松井がまたもやカウンターから、決定的な3点目を奪う。帰途につくジェフサポが、一人また一人とスタンドを去っていった。それも当然だ。彼らはこんな姿が観たくて、身銭を削って京都まで来た訳では無い。
残ったサポは声を枯らしてコールをし続けた。残留戦のような悲壮な「あっこちゃん」が西京極に響く。
後半41分、林がそれに応えて1点を返す。急ぐ林。まだその姿に、サポも諦めない。折れた気持ちを必死に立て直す。
さらに後半44分、林がもう1点を突き刺す。あと1点!
京都スタンドが静まり返り、市原スタンドがさらに勢いづく。ロスタイムは3分。。。
だがしかし、遅すぎた。
最後のFKも、得点には至らない。無常にも最下位に敗戦。最下位に負けて、優勝戦線からの後退だ。ジェフサポの多くが描いていた、最終節へのラッシュが砕けた。トーナメント初戦敗退だ。
スタンドは正直だった。
後半途中から投入され、最後まで諦めなかった闘志を見せた林と巻、そしてゴールを守り続けた櫛野にだけコールが飛んだ。罵声も飛んだ。罵声を飛ばした。「何で最初からやれねぇ!」と。
夕暮れの西京極に、京都サポの凱歌がいつまでも響いていた。寒い。なんでこんな思いをしているのだと思う。
追い討ちをかけるように、携帯電話が知らせた監督コメントは、
「試合というものは、勝ちたいという意識が強いチームが勝つものだ」
この一言。監督は一体、今日の試合から何を感じたのか。俄かに来季が不安になって、帰りの電車も何か嫌な思いが頭を巡った。
深夜に千葉に帰り着き、仮眠を取って次の日の朝、姉崎に向かった。
立正大学とのTG。
前日、あれだけのものを見せられているのに、まだ追い討ちをかけるか。始まった試合は、観るに耐えない最悪の内容。およそプロと呼ぶに値しない内容のゲームが展開されていた。
後半のシュート、市原6本:立正大学13本と言う数字が、その異常さを端的に現しているだろう。
その中でただ一人、必死になってなんとかしようとしている選手が居た。林だ。
昨日、30分以上全力でプレーしているというのに、一番彼が動いていた。必要な指示を出し、体を張ってボールを追い、感情を剥き出しにして勝利を追い求めていた。その姿には、かつてサボり癖と不貞腐れで心配されていた姿は無かった。一人だけ、プロのサッカー選手がいた。そんな彼をチームメートは見殺しにして、1−2の敗戦。90分フル出場し、1得点。最後までボールを追っていた。
試合後、一人だけピッチに座り込んで立てなかった。
クールダウンでも、ベンチコートを目深にかぶって、一人離れてランニングしていた。
ポストにもたれて、座ってしばらく動けない林がいた。
くたびれ果てて帰って来たと言うのに、小さなファンのサインに快く応えていた。
彼に任せてみたいと、心の底から思ったのは今日が始めて。
ボロボロのチームの中で、林だけが本当に昨日の試合の中からずっと悔しかったのだろう。何とかして勝ちたかったのだろう。
そんな彼を、監督は観ていたはずだ。
心配された監督はちゃんとピッチに居た。ファンの方を大きな腕で指し示して、何かをコーチ達に伝えていた。ファンの一人一人を気遣うように、監督が穏やかな顔でクラブハウスに戻っていった。
お願いだから、監督。このチームを、もっと強くして欲しい。
ここまで闘った、この一年がムダでは無かったと、残り三試合で納得させて欲しい。
勝つときも負けるときもある。
だから、市原のサッカーで残り三戦で完全燃焼してくれ!
それを最後まで観て、声を出して応援するから!
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■11時・姉崎練習場
市原1(1−0、0−2)2立正大学
GK立石(後半15分・石川)、DF野本・吉田・結城、
ボランチ楽山・工藤、左WB拓土、右WB金位漫、OH林、FW巻・金東秀
得点者
前半38分・林
【前半】
市原:SH11/CK04/FK08/GK03/PK00/OFF01
立正:SH04/CK02/FK04/GK02/PK00/OFF03
【後半】
市原:SH06/CK01/FK05/GK03/PK00/OFF01
立正:SH13/CK03/FK07/GK01/PK00/OFF00
※林以外では、ウィマンが前半から必死に声を振り絞っていた。
プレー自体は完全に空回りだったが、何とかしたい意思は見て取れた。