■死力を尽くした一戦だった。走り、当たり、叫び。選手も、スタッフも、サポーターも、胸を張って力を出し尽くしたと言える。市原10年の歴史の中でも、最高の一戦だった。
「首位攻防戦」と言う、これまで経験した事の無い未知の領域。磐田にかけつけたサポーターは実に1,500人。磐田のAWAY側を完全に黄色く染め、そして声援でも完全に磐田を圧倒した。それはそうだろう、磐田サポが出している段幕は「打倒市原」。声援も「普段通りにやれば市原には負けない」、そんな雰囲気が透かして見える。そんな近視眼的なものしか見えて居なくて、我々の“想い”に勝てるのか。我々には、J2降格・チーム解散まで寸前までチームが追い込まれ、今も観客動員に苦しんで存続に揺れる市原の10年の歴史が、そして未来が懸かっている。一勝、一勝ち点、一得失点差がチームの存亡に関わる修羅場を潜り抜けている。
その覚悟が磐田のサポにあるのか、我々の叫びはその全てが詰まったそれなのだ。
試合前からムードは異様。テンションが異常に高い、暑い、息苦しい。程なく始まる応援。16,000人を飲み込んだヤマハスタジアムだが、一騎当千、ジェフサポは力の限りに声を出し、選手たちを鼓舞した。
選手入場。「勝利へのマーチ」に乗って阿部を先頭に選手たちが入ってくる。表情までは分からないが、これまでに無い頼もしさが感じられる。メンバーはベスト。これで、やれる事をやるしかない。
キックオフ。ゲームは磐田の猛撃で幕を開ける。「様子伺い」などと言う時間を許さず、王者が猛烈なプレッシャーで押し込んで来た。CKを取られ、名手・名波のシャレにならないキックが弧を描いて通り過ぎて行く。
市原に勢いがあると見た磐田の取った戦略は「それ以上の勢いで攻め込む」こと。あれほどまでに鍛えた走力が発揮できない。ボールをダイレクトプレーで次々と回され、プレスに行ってもボールが奪えない。こんなにもプレッシャーのかかった細かいエリアで正確にボールが回せるものなのか。伊達に王者じゃない、本気の磐田は想像以上の強さだった。局面に強く、とにかく正確。1・2・3・4とゴール正面で密集を回され、グラウにフリーでシュートを許すが、櫛野が気合でセーブ。だが、防いでもその先には、また名波のCK。全く生きている心地がしない。
流れが来ない。ずっと押しまくられたままだ。
このままじゃマズい、そう思い始めた頃にまた名波のCK。ファーでフリーになっていた前田のヘディングを櫛野が弾くが、グラウに詰められて先制を許す。グラウのプロレス用(?)のマスクをかぶったパフォーマンスで、派手に煽られる。目の前で観てるから癪に障ることこの上ない、イエローじゃねぇのか?あれは!?
今までの市原なら、ここでガックリとうなだれていただろう。しかし、今は違う。劣勢でも、点を決められても前を向く気力は萎えない。もう一度落ち着きを取り戻して磐田に向かい合う。
先制点で、気持ちに余裕が出来たのか、若干磐田の動きが緩くなる。
そこを突いて、市原が体制を立て直す。羽生・サンドロ・坂本・村井・阿部・勇人の6人の中盤が、徐々に噛み合って来る。相変わらず劣勢には変わりないが少しずつだが、市原がボールが回せる時間が少しずつ増えてくる。反撃を試みるが、いなされ、リードを許したままに前半を終了してしまう。
ハーフタイム。あまりの磐田の強さに、愕然とした声があちらこちらで聞こえる。ウチだけじゃない、磐田も相当な訓練をずっと続けて来ているのだろう。前半のパス回し、運動量、そして全員の意思統一、あれは一朝一夕のモノじゃない。ウチはまだまだ、やらなくちゃいけない事がある。
いつもと変わらない時間があるはずなのに、イヤにハーフタイムが短く感じる。
今度は互いにサポーターに向かって攻め立てる番。ピッチに入って来た両チームの選手たちは、この上なく気合が入った表情だ。残り45分、互いの意地がブツかるだろう事が容易に想像された。
後半、今度は出鼻から市原が仕掛ける。
磐田が攻め立てるのなら、それ以上の力で攻め立てること。それが監督の下した指示だった。まるで加速が終わったところから、さらにパワーが盛り上がるターボ付きのエンジンのように、磐田の選手に対して猛烈なプレッシャーを仕掛け、ボールを奪うや全員が一気に攻撃に展開する。
これまで、相対したチームを飲み込んできた、走力で圧倒する市原本来のサッカーだ。やれるか?どこまで、通用するのか?市原の波状攻撃に磐田は押し返す事が出来ない。遂には、右サイドから坂本が特攻。かつて、彼のデビュー戦で見せたような突破でペナルティエリアに侵攻。これを藤田が後ろから押さえつけて倒してPK。
蹴るのはもちろん、崔龍洙。
大歓声に後押しされて放たれたボールは、武藤のループのような滞空時間でふわりとネットに収まった。ヨンスがガッツポーズで飛び跳ねてたみたいだが、その瞬間、スタンドはお祭り騒ぎでなんだか解らない状態。誰彼構わず抱き合い、声にならない声が上がっている。
「いける、間違いねぇ!」
確信に満ちて、走り続ける選手たちに声援を送り続ける。尚も攻撃が続くが、磐田も技術と連携力を駆使して反撃を仕掛ける。中盤の厳しいせめぎ合いが続き、イエローが頻発する。
途切れそうな集中力の中、それでも市原は流れを離さなかった。
戻りオフサイドで得たFKを茶野が監督の教え通りに素早く前線に送り込む。そこには崔龍洙。一瞬の隙を突いて、ヘッドでゴール前にボールを流すと、そこにはサンドロがまっしぐらに駆け込んでいた。逆転!!
もうスタンドはなんだか判らない。悲鳴だか、歓声だか判らない声が響き、サンドロコールをしながら抱き合ってぐちゃぐちゃになっている。誰もが、この試合のその先を夢見てしまった・・・その歓声の中、磐田は集中力を失っていなかった。同様に素早いリスタートから、ジヴコビッチのクロスに前田!一瞬の隙を逃さない、王者にすぐさま同点に持ち込まれる。前田は、中山バリにボールを抱えてセンターサークルへ。
ここまで来ると意地の張り合いだ。お互い、引き分けで終わろうなんて、さらさら思っていない。市原サポからは「アッコちゃん」の大声援が始まる。もうこの歌も、残留争いの苦しさだけを思い出させる声援じゃ無くなった。今度は、チームを一段押し上げる為の応援なんだ。
残り15分、右から左へ、後ろから前へ目まぐるしくボールが動き、互いに攻撃も守備も限界のところでのプレーが続く。
ロスタイムに入るところで、ついにオシムが動く。羽生に代えて山岸。この山岸がワンプレー目で磐田DFを切り裂いてフリーの勇人へ・・・しかし、押し込むだけのボールは無常にも足がもつれたかシュートを撃つ事が出来ない。直後、FKからの村井のミドルも、ヴァンズワムが片手でかき出す。
逆に前田のシュートは、櫛野がはじき出す・・・。
そしてギリギリのところで闘った90分が終わる2−2。膝に手をつき、がっくりとうなだれる選手たち。ペットボトルを地面に叩きつけ、悔しさを露にする監督。勝てなかった悔しさが、そこにはあった。
だが間違いなく、自分が観た中で最高の90分。互いの健闘を称え合う両軍が、印象的だった。磐田戦で得た物、それは王者と正面をきって互角に戦えると言う何物にも代え難い自信だ。戦い終え、こけた頬でインタビューに応える阿部が、何時の間にか「主将」の顔になっていた。
天王山は、痛み分け。勝てた試合を逃し、突き放す事は出来なかった。それでも、首位は首位。我々が有利である事に変わりはない。
試合前から解っていた事だが、この試合は15試合の中の一試合。そして、何が決まるわけではない。あの時もそうだった。福岡に5−0で勝った99年2NDステージの第14節。あの日も「次に勝たなくては意味が無い」状況だった。市原は、相手が何処であろうと目の前の試合に集中し、そして日頃の鍛錬の成果を出して、勝利するだけだ。
次の清水戦は、ジェレとサンドロが出場停止。世間は市原にとって厳しい戦いと予想するだろう。たしかに難しい試合になる。けれども、ジェレに代わって復帰するのは最強のユーティリティプレーヤーにして市原の歴史を背負う中西永輔。サンドロの代役にも、山岸・林と言った遜色無い選手が控えている。誰もが、自分の体に刻み込まれた鍛錬の結果に自信を持っている。
かつて経験し得ない状況のプレッシャーにも、監督は「あえて言うなら、ピッチで起きることについて、私は嫌というほど知っているから簡単だ。経験なら、全員の分を引き受けてもまだ大丈夫なくらいあるよ。」(MASUJIMA STADIUM(
http://www.asahi-net.or.jp/~MU2M-MSJM/stadium/daily/new.html)より)と笑って見せる。
後は往くのみ。我々も声援と言う力で、出来る限りをするだけだ。
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
【選手評価】
GK櫛野:気迫のセーブで再三のピンチを防ぐ。2失点は、彼からすればノーチャンスだった。
DF斎藤:前田をマークしたが、失点の場面ではフリーにしてしまった。予想以上に前田はキレていた。技術も気迫もある良いFWだ。
DFジェレ:コンディションが心配されたが、防空とカバーリングで貢献。普段よりは意識を守備に置いていたようで、攻撃参加は少なかった。
DF茶野:グラウをマーク。危な場面もあったが、概ね押さえ込んだ。2得点目の起点となった素早いリスタートは、かつての「茶野フィード」をもはや感じさせない。
MF坂本:藤田とタイマンで勝負し、PKを奪取するなど活躍。守備でも運動量と粘り越しで奮戦した。一方で、同点弾を決められた場面でジヴコビッチをフリーにしてしまい、監督から叱責を受ける。
MF村井:攻撃の起点として警戒され、2枚・3枚で囲まれた。窮屈なシーンが多かったが、坂本のシュートを生んだクロス、終了間際の強烈なミドルなど要所で活躍していた。
MF阿部:磐田の核、名波と対戦。前半は捕まえきれずに苦労したが、後半は一歩も引かずに名波を押さえて正確なパスでゲームを組み立てた。FKの精度がもう少しあれば・・・。
MF勇人:復帰初戦にも関わらず、いつも通りの運動量で中盤を牽引した。超決定機を含む2本のシュートミスがあり、精度に課題を残す。本人が一番に悔しいだろう。
MFサンドロ:強靭なフィジカルを活かして奮闘。磐田のDFにピッタリと張り付かれても、キープ出来る強さは貴重だった。同点弾の場面は最高のタイミングだった。
MF羽生:運動量は豊富だったが、決定機での絡みが少なかった。やや守備に忙殺された感がある。攻撃への関与に課題を残す。
FW崔龍洙:同点PKは完全に相手をナメたもの。それをあの場面で出せるのがすごい。守備をサボらず、サンドロの得点も頭でアシスト。
MF山岸:出場早々、大仕事を為しかけたが。。。